社会保険の概要と特色 |
1 社会保険の概要等
(1) 社会保険の概要
人々が安心して日々の生活を送るうえで、不慮の災害や病気に備えておくことは必要不可欠な事柄です。このためには種々の保険をかけておくことが求められるわけですが、このような保険には民間の生命保険会社や損害保険会社が行っている私的保険と、社会保障制度の一環として国が直接運営する公的保険とがあります。この公的保険が私的保険と著しく異なる点は、一定の条件に該当するものについては強制加入させるということです。したがってどんな小さな事業所であっても、人を雇用している限り保険事務を行う必要がでてくるのです。 これらの公的保険には、健康保険や厚生年金保険など一般に「社会保険」と呼ばれるものと、労災保険や雇用保険などのいわゆる「労働保険」と言われるものがあります。またこれら公的保険を総称して社会保険という場合もあります。
(2) 社会保険の種類
社会保険は、保険加入の対象者や保険給付の目的等によりいくつかの種類に分けられます。保険の適用単位で区分すると次のようになります。
前者はその職場で使用される人(被用者)が対象となり一般的に職域保険と呼ばれています。また、後者は個人商店主、デザイナーなどの自由業者、農業従事者など職域保険の対象者以外の住民などが対象となり、一般に地域保険と呼ばれています。ここでは中小企業にとって避けて通ることのできない職域保険を中心に、またその中でも最も身近な存在である健康保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険についてその概要を説明することにします。
〇事業所を適用単位とするもの 健康保険 厚生年金保険 労災保険 雇用保険 船員保険 各種共済組合 〇市区町村などの居住地域を適用単位とするもの 国民健康保険 国民年金
2 各種社会保険のあらまし
(1) 健康保険
健康保険は、各事業所に勤務する従業員が加入対象となり、従業員やその家族が病気やケガをしたとき、不幸にして死亡したとき、分娩などにより臨時の出費を必要とするときなどに医療費や手当金が給付されるものです。この健康保険はその加入対象者から被用者保険ともいわれ、また医療費を主として給付するところから医療保険ともいわれています。これは年金のように長期にわたり給付するものではないので短期保険に分類されます。
なお健康保険はその保険者によって次の2つに分けられます。
〇国が直接保険者となるもの−−−−−政府管掌健康保険
〇健康保険組合が保険者となるもの−−組合管掌健康保険
- **健康保険組合とは**
- 健康保険組合は、国の事業を代行するものとして公法人の性格が与えられており、健康保険法に定められた保険給付、保険・福祉施設事業を行うことができるなど自主的な事業運営ができることになっています。
- この健康保険組合は一般に事業主が単独、又は共同で自らの発意によって設立しますが、設立には厚生大臣の認可が必要であり、その要件は次のとおりとなっています。
ア. 設立事業所に使用される被保険者の員数が常時300人以上であること(行政指導により単独の場合はおおむね700人、総合の場合はおおむね3000人以上とされています。) イ. 事業主は、組合員となるべき被保険者の2分の1以上の者の同意を得ること ウ. 事業主は、規約を作成し所要の関係資料を添付して、厚生大臣に対し設立の認可申請をすること
(2) 厚生年金保険
厚生年金保険は事業所で働く人たちが加入する年金制度です。この年金制度は加入者が老年となり働けなくなったり、病気やケガで障害が残ったり、不幸にして死亡した場合などに年金や一時金を支給し、働く人や家族の生活の安定を図ることを目的にしています。厚生年金保険は個人ごとに加入するのではなく、会社単位で加入し、そこに働く人は全員加入が義務づけられている強制保険です。健康保険と同様に一部の例外を除いて民間企業に働く大部分の従業員を対象にしています。
また厚生年金保険は保険事故の発生により、それが継続する限り長期間にわたって給付が行われるため、健康保険の短期保険に対して長期保険と言われます。
(3) 労働者災害補償保険(労災保険)
労災保険は、従業員が業務上の原因により被った病気やケガなどに対して必要な治療費を給付するほか、従業員が療養のために労働することができず給料をもらえないときは休業補償給付が受けられます。また、病気やケガが治った後身体に障害が残ったときは、その障害の程度に応じて年金又は一時金が受けられ、不幸にして死亡したときには、遺族に対して年金などが支給されます。なお、通勤途上の事故による病気、ケガ又は死亡については、業務上の災害に準じて労災保険から保険給付がなされ、健康保険の給付は受けられません。この労災保険は使用者の負担する保険料で賄われ、保険料は危険度と災害率を考慮して業種別に定められているのが特徴です。また、原則として一部の任意適用事業所を除いたすべての事業所が強制適用となりますから、一人でも従業員を雇用すれば、事業者は労災保険の加入手続きをとることが必要となります。
(4) 雇用保険
雇用保険の主な目的は、労働者が失業したときに各種の給付金を支給し、労働者の生活を安定させることです。またこれに併行して雇用安定事業、雇用改善事業、能力開発事業、雇用福祉事業などの種々の事業も行われています。
失業したときの給付はその目的、性質により次の2種類に大別されます。
雇用保険では、業種や事業規模の大小に拘わらず、原則として従業員を雇用する事業所はすべて適用事業とされています。ただし、農林水産の一部の事業については、事業所の把握が困難なこともあり当面暫定的に任意適用事業となっています
ア. 求職者給付 −− 労働者が失業したときに、その間の生活の安定を図るためになされる給付 イ. 就職促進給付 −− 再就職を促進することを直接の目的とする給付